〈民法改正メモ-04〉賃貸借契約

改正の概要
  • 本旨に反する使用・収益による損害賠償請求権について、時効の完成を返還時から1年間猶予する規定が新設されました。(600条2項)
  • 契約期間の上限が20年から50年に伸長されました。(604条)
  • 賃借人たる地位の移転に関する判例が明文化されました。(605条の2、605条の3)
  • 不動産賃借権に基づく妨害排除請求に関する判例が明文化されました。(605条の4)
  • 賃借人の原状回復義務に通常損耗と経年劣化が含まれないことが明記されました。(621条)
  • 敷金に関する明文規定が設けられました。(622条の2)

契約実務への影響

  1. 賃貸人たる地位の移転
    • 賃貸借の目的物を譲渡した後に譲渡人にリースバックして譲渡人が賃貸人たる地位を継続する場合、賃貸人からの承諾が不要となりました。(605条の2第2項)
    • 賃貸借の目的物を譲り受けた新所有者は、登記を具備すれば、賃借人に対する通知・承諾なしに、賃貸人たる地位を賃借人へ対抗することができることとなりました。(605条の2第3項)
    • 旧所有者と賃借人の間で賃料不払いが生じている場合、賃料不払い分を敷金から充当した残額の返済債務が新所有者に移転するのか、それとも敷金全額の返済義務が移転するのかは、改正民法に規定されませんでした。新旧所有者間で取り扱い(未払い賃料の状況と敷金返済債務の内容を売却代金に反映する等)について合意しておく必要があります。
  2. 収去義務・原状回復義務
    • 通常損耗(家具設置によるカーペットの磨耗、時間経過による壁紙の汚れ等)の費用を賃借人に負担させることができません。(621条)。
    • 賃借人に磨耗・経年劣化についても原状回復義務を負わせたい場合は、具体的に契約に特約として明記(国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」等を参考に)する必要があります。
    • ただし、企業と一般消費者との賃貸借契約の場合は、消費者契約法が適用され(消費者契約法10条)上記特約は無効とする裁判例もあるため、注意が必要です。
  3. 改正民法の適用時期
    • 施行日以後に締結された賃貸借契約(「付随する買戻しその他の特約」も含む)に改正民法が適用され、施行日より前に締結されたものは従前の民法が適用されます。(附則34条1項)
    • ただし、妨害排除等については、施行日以前に締結された賃貸借契約でも、施行日以降に第三者が不動産の施入を妨害などした場合には、改正民法に基づいて賃借人が妨害排除請求権を行使することができます。(附則34条3項)
    • また、施行日以前に締結されたものでも、施行日以降に契約更新の合意がされる場合は、賃貸借期間を50年までとする改正民法の規定が適用されます。(附則32条2項)それ以外の改正民法の規定は、更新の場合は適用されません。

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