〈民法改正メモ-08〉消滅時効

改正の概要
  1. 主観的起算点のみだった制度に客観的起算点が追加されました。
  2. 生命身体侵害に対する損害賠償請求の時効が伸長されました。
  3. 商事債権の5年の消滅時効が廃止され、民法に一本化されました。
  4. 職業別短期消滅時効制度が廃止されました。
  5. 協議による時効の完成猶予が新設されました。
解説と契約実務への影響
  1. 旧民法では、原則として、債権の消滅時効の期間は、権利者が権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間のみとしていましたが、改正民法では、この客観的起算点を維持したまま、権利を行使する事ができることを知った時から5年間でも時効により消滅することとして「主観的起算点」が追加され、いずれか早く到達する日に時効が完成することとされました。契約実務では、契約に基づいて発生する債権は契約と同時に当事者が知っている状態(=主観的起算点)になっているのが普通なので、客観的起算点と主観的起算点が一致し、よって時効期間が10年から5年に短縮されたのと同じ効果になります。なお、契約以外の原因による債権(不当利得・不法行為・事務管理など)については、客観的起算点と主観的起算点が一致しない場合があります。
  2. 生命身体の侵害による損害賠償請求権の消滅期間に関しては、客観的起算点によるものが20年、主観的起算点によるものが5年に伸長されています。これにより、生命身体が侵害されたことに基づく損害賠償請求権の場合は、債務不履行に基づく請求でも、不法行為に基づく請求でも、ともに同じ消滅時効期間(20年と5年)に統一されました。
  3. 商事債権・民事債権を問わず、消滅時効は民法に一本化されました。これにより、今まで商事債権の時効の適用がなかった信用金庫、信用組合、農協等(これらは今まで商法の対象ではなかった)や個人間の債権の消滅時効期間が5年に短縮されることになります。
  4. 今まで一般の商事債権より短い消滅期間が規定されていた「工事の設計・施工等の請負代金債権」「生産者、卸売・小売商人の商品売却代金債権」「旅館、ホテル、飲食店の宿泊料・飲食料債権」「貸衣裳、レンタカーなどの動産の損料債権」が、統一されて「権利を行使することができる時から10年、知った時から5年」になりました。ただし、「月給・週給・日給の給料債権」については、労働基準法によって2年となっているまま残されました。これによる契約実務への影響としては、これまで短期消滅時効が適用されていた職種に関して、各企業の有する債権の消滅時効期間が5年に伸長されることから、書類の保存期間が長期化することを周知徹底の必要があります。
  5. 時効期間の満了が近づいてしまったために、従来であれば時効の完成を阻止するためには「訴え提起」をせざるえないという場合に、「当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面又は電磁的記録による合意をすることによって、時効の完成を猶予する制度」が新設されました。これによって、訴えを提起しなくても、協議によって1年間時効を猶予することができるようになりました。以下に詳しく説明します。
    • 権利について協議を行う旨の合意が書面でされたときは、「その合意があった時から1年を経過した時」「その合意において当事者が協議を行う期間(1年未満に限る)を定めたときは、その期間を経過した時」「当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時」のいずれか早い時までの間は、時効は完成しません。
    • 上記の合意は何度もすることができますが、合計の猶予期間が5年を超えることはできません。
    • 時効の完成を阻止するために従来からある手法として、内容証明郵便などによる「催告」がありますが、上記合意と併用できません。つまり、催告によって猶予された6か月間においては、協議による猶予のための合意は利用できず、また、協議による猶予のための合意によって猶予されている期間中にさらに催告による猶予をすることはできません。
    • 合意は、紙の書面によるほか、電磁的記録によってもすることができます。

PAGE TOP